ヴィンセント・バックのトランぺットマウスピース「6」、シルバープレート（銀メッキ仕上げ）です。「6C」でも「6B」でもない、「6」です。
評判の良い旧刻印と言われている時代に製作されたものの中でもさらに評判の良い、1960〜70年代あたりに製作されたマウスピースです。ヴィンセント・バック氏の工房がニューヨークのマウントヴァーノンからインディアナ州のエルクハートに移ったすぐ後くらいの時代に作られたマウスピースで、アーリーエルクハートなどと呼ばれることもある非常に評価の高い時期のものです。
ボディには「VINCENT BACH CORP. 6」という美しい書体の趣のある刻印が、しっかりと入っています。「CORP」と「6」の間隔がかなり広く、間の「.（ドット、ピリオド）」は大きめでより深く刻印されています。
リムはフラットな形状で、リムの外側エッジが落ちていない、V.バックでは珍しい形状のリムです。意識しなくても、自然と唇が中央に集まるような絶妙な形状です。
カップは深めで、同じV.バックの6Bよりも少し深く、ややVカップ気味のデザインになっています。カップ内には敢えてうっすらと旋盤の加工跡をヘアライン状に美しく残してあって、カップの中で息の流れや響きが微妙に複雑な乱反射をすることで良い音色を生み出すという話も聞きます。
V.バックの「〜C」や「〜B」などのアルファベットがつかない型番には、標準的なNo.10という番号がつけられたスタンダード・バックボアが採用されていますが、この「6」はバックボアを覗くと通常のスタンダードバックボアよりも少し広めのバックボアになっているように見えます。
バックボアは外側からは見えにくい部分なので分かりづらいですが、音色や音程、息を入れた時の抵抗感に大きく影響を与える箇所です。V.バックの古い時期のものは、製作された時期や職人さんによって、良い意味でわずかに個体差があって、このマウスピースはより豊かな音色を狙って丁寧に作られているように思えます。
シャンク先端は薄めで、非常に繊細で精緻な仕上げが施されています。
サウンドは豊かで深みがあり、メローでふくよかな魅力的な音色です。トランペットはキンキン、ギャンギャンとした音で吹くと「うるさい」と思われがちな楽器ですが、カップが深めなマウスピースでふくよかな音色で吹けば、トランペットに持たれている悪いイメージも変わります。
「カップが深いと音色は良いけど、すぐにバテそう」と思われそうですが、フラットでワイドな形状のリムが、高音域や長いフレーズなどの手助けをしてくれます。リムとカップなど、全体のバランスが絶妙に整えられた素晴らしいマウスピースです。
ハンガリー出身で、後にアメリカに渡ってボストン交響楽団やメトロポリタン・オペラのトランペット奏者を務めた時期もあったヴィンセント・バック氏本人は、自身がデザインしたこの「6」と「1-1/4C」を愛用していたそうです。ジャズトランペットのレジェンド、フレディ・ハバード氏や、フュージョン、ファンクでも超人気プレイヤーのランディ・ブレッカー氏も、V.バックの「6」を使用していた時期があるようです。
全体に非常に良い状態を保っています。ところどころ極わずかな小キズが見受けられますが、よく見ないとわからないほどでほとんど気にならないと思います。全体の銀メッキの状態も非常に良好で、美しく光り輝いています。バックボア内の銀メッキも美しく輝いているほど状態の良いマウスピースです。半世紀以上も前に製作されたとは思えない、驚異的なコンディションを保っています。
マウスピースの表面とカップ内からバックボア、シャンク先端まで、綺麗に洗浄して適度に磨いてありますので、汚れなどの心配のまったくない清潔な状態にしてあります。
V.バックの状態の良い旧刻印のものはどんどん数が減ってきているようで、6Cよりも大きいサイズは現存数が少なく、この時代のマウスピースを探している人も多いと思います。「6」は現存数が少なく、一度手に入れたら手放さない方が多いようです。現在のV.バックのマウスピースと比べると、見た目やそのハンドメイド感がまったく違いますし、何より吹いてみればその音色、吹き易さ、その他すべてにおいてまったく別物と言っていいと思います。
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